
OpenAIは2025年4月16日に、推論能力を大幅に強化した新モデル「o3」と「o4-mini」をリリースしました。これらのモデルは従来の「o1」シリーズから大きく進化し、特に推論能力とエージェント機能が向上しています。本記事では、両モデルの特徴と違いを詳しく解説します。
o3モデルの主な特徴
OpenAIは2025年4月16日(米国時間)、推論性能に優れた最新AIモデル「o3」と「o4-mini」を発表しました。o3はこれまでOpenAIが一般公開してきたモデルの中で最高性能を誇る「o1」の後継モデルで、特にコーディングや数学、科学、視覚認識などの分野で優れた能力を発揮します。
最も注目すべき点は「エージェント」としての機能強化で、Web検索、画像認識、コード実行など複数のツールを自律的に組み合わせて高度な推論と複雑なタスク処理が可能になった点です。
性能と推論能力
o3はOpenAIがこれまで一般公開している中で最高性能を持つモデルとなっています。特にコーディング、数学、科学、視覚認識などの分野を得意としており、複数のベンチマークテストで最高記録(SOTA: State of the Art)を達成しました。外部専門家からの評価によると、「難しいタスクにおいてo1よりも重大なエラーが20%少なく、特にプログラミングやビジネス、コンサルティング、創造的なアイデア創出などの分野で優れている」とされています。
コーディング、数学、科学、視覚認識の分野で新たな最高性能(SOTA)を達成しました。困難なタスクにおいて、o1と比較して重大なエラーを20%削減しました。 このような高度な推論能力により、複雑な問題解決や深い分析が可能になっています。
コンテキスト処理とモデルの規模
o3の大きな特徴の一つに、コンテキストウィンドウ(AIモデルが応答を生成できるテキストの量)の拡大があります。従来モデルよりも大幅に増加し、20万トークンまで処理することが可能になりました。また、出力できるトークン数も10万と膨大になっています。
これにより、長文の論文解析や複雑なコード生成など、大量のテキスト処理を必要とするタスクの処理能力が大幅に向上しています。
エージェント機能とマルチモーダル処理
エージェント的機能の実装
o3の最も革新的な点は、「エージェント的な訓練」を受けていることです。これは、ユーザーの代理人として、Web検索、画像認識、グラフ描画、コード実行といった拡張的な機能(OpenAIの表現では「ツール」)を積極的に使うよう学習していることを意味します。
ChatGPT内の全ツールを組み合わせて、AIエージェントのように使うことが可能になりました。主にWeb検索やアップロード済みファイルの利用、Pythonでのデータ分析、画像生成などが対応しています。これによりChatGPTは、ユーザーのリクエストに応えるために適切な出力形式を自ら推論するようになりました。
マルチモーダル処理能力
o3はテキストだけでなく、画像などの視覚情報も高度に処理できるマルチモーダルモデルとなっています。画像を細かく解析する能力が強化され、画像をズームして詳細部分を検証することも可能になりました。
例えば、論文のスクリーンショットを解析し、その内容に基づいてWeb検索で最新情報と比較するといった複合的なタスクを一連の流れとして実行できます。また、結果を複数行で整理して提示するなど、より人間が読みやすいアウトプットの生成も可能になっています。
「画像思考 (Thinking with Images)」: o3およびo4-miniは、単に画像を見るだけでなく、画像と共に推論する能力を持ちます。写真、図、スケッチ(たとえ不鮮明であったり回転していても)といった視覚情報を、思考連鎖に直接統合することができます。
o3とo4-miniの比較
主な性能差
比較項目 | o3(フラッグシップモデル) | o4-mini(小型・高速モデル) |
---|---|---|
位置づけ | 最高性能・推論力重視 | 高速・コスト効率重視 |
得意分野 | 複雑な分析、高度な研究、最先端タスク | 数学、コーディング、ビジュアルタスク、大量処理 |
推論力 | 非常に高い(複雑な課題や創造的思考に最適) | o3よりやや劣るが、日常的な用途には十分高性能 |
応答速度 | 標準的 | o3より高速 |
コスト | 高価 | o3の1/9以下で利用可能 |
利用制限 | 標準的 | o3より大幅に緩い(大量処理に最適) |
知識の網羅性 | 非常に高い | o3よりやや劣る(誤情報発生率もやや高い) |
適した用途 | 重要な意思決定、研究・開発、難解な問題解決 | 日常業務、大量処理、コスト・速度重視の用途 |
o4-miniの位置づけと特徴
o3と同時に発表された「o4-mini」は、o3よりも推論能力は劣るものの、応答速度やコスト効率に優れた小型のAIモデルです。o3-miniの後継モデルとして、特にコーディングや数学、視覚タスクを得意分野としています。
o4-miniは前モデルの「o3-mini」よりも利用上限が大幅に増加し、大量の問い合わせやリアルタイム応答により適したAIモデルとなっています。
効率性: 効率の良さから、o3よりも大幅に高い使用制限をサポートしています。推論が有効な大量・高スループットのタスクに適した強力な選択肢となります。o3よりも高速です。
ベンチマーク性能の比較
ベンチマーク名指標o1 スコアo3-mini スコアo3 スコアo4-mini スコア Codeforcesスコア1891207327062719 SWE-Bench Verified精度 (%)48.9%49.3%69.1%68.1% AIME 2024精度 (%)74.3%87.3%91.6%93.4% AIME 2025精度 (%)79.2%86.5%88.9%92.7% GPQA Diamond精度 (%)78.0%77.0%83.3%81.4% MMMU精度 (%)77.6%N/A82.9%81.6%
特筆すべきは、o4-miniが数学系のベンチマーク(AIME)においてo3をわずかに上回る結果を示している点です。より軽量なモデルながら、特定の分野では最上位モデルと互角以上の性能を発揮しています。
具体的な活用シーン
o3の活用例
- 高度なプログラミング・開発: 複雑なアルゴリズム設計、最適化、バグ検出・修正、大規模コードのリファクタリングやテスト自動化
- ビジネス分析・コンサルティング: 市場調査や競合分析、財務モデリング、リスク解析、戦略立案
- クリエイティブ制作: 長文コンテンツや企画立案、商品開発、ビジュアルコンセプトの創出
- エージェント的な自律タスク: Web検索・画像解析・データ分析・コード実行など複数ツールの連携による複合タスク
o4-miniの活用例
- 大量処理・自動化: 多数のユーザーリクエストを同時処理するWebサービス、チャットボット、FAQ応答
- 日常的なAIアシスタント: 文章作成、要約、翻訳、質疑応答など、一般的なタスク
- 高速応答が必要な場面: リアルタイムチャットや即時性が求められるアプリケーション
- コスト重視のサービス: APIコストを抑えつつ、大量のタスクを安定処理したい場合
利用方法と提供状況
o3とo4-miniは、ChatGPTの有料プランである「Plus」「Pro」「Team」ユーザー向けに2025年4月16日(米国時間)から提供が開始されました。これらのプランでは、従来のo1、o3-mini、o3-mini-highに代わって、o3、o4-mini、o4-mini-highがモデル選択の画面で選べるようになっています。
「Enterprise」と「Edu」ユーザーは4月24日からアクセス可能になる予定で、無料ユーザーはo4-miniのみ試用できるようになっています。無料ユーザーはプロンプト送信前に「Think」を選択することでo4-miniを試用できるとのことです。
OpenAIは有料ユーザー向けに提供しているハイエンドモデル「o1-pro」の後継として、「o3-pro」を今後数週間以内に提供する予定であることも発表しています。
結論
o3の登場は、AIの進化における重要なマイルストーンと言えるでしょう。特に注目すべきは、単なる性能向上だけでなく、エージェント機能の強化によって、AIがより自律的かつ多様なタスクに対応できるようになった点です。複数のツールを自律的に組み合わせて問題解決できる能力は、AIをより実用的で価値のあるアシスタントへと進化させています。画像の詳細解析、Web検索、データ分析、コード生成といった機能を一貫したフローで提供できるようになり、ユーザーはより自然な形でAIと協働できるようになりました。
o3とo4-miniは、それぞれの長所を活かして使い分けることで、様々なニーズに対応できます。高度な推論と精度が求められる場面ではo3を、コスト効率と速度が重要な場面ではo4-miniを選択するのが良いでしょう。
今後も「o」シリーズは進化を続け、AIとのインタラクションはますます自然で効率的なものになっていくことが期待されます。